2016
03.10

冬の海、嵐の夜、道なき船。『ザ・ブリザード』感想。

finest_hours
The Finest Hours / 2016年 アメリカ / 監督:クレイグ・ギレスピー

あらすじ
砂州=さす、と読みます(さしゅうじゃなかった)。



真冬の北大西洋を襲ったブリザードにより巨大タンカーが遭難。救助のため出動したバーニーたち4人の沿岸警備隊だったが、定員12名の小型救助艇に対し、タンカーに取り残された生存者は32人。荒れ狂う海を乗り越え、残り僅かな時間で救出できるのか。アメリカ沿岸警備隊に語り継がれる実話「SSペンドルトン号の救出劇」を映画化した海洋パニックアクション。

『タイタニック』や『パーフェクト・ストーム』、最近でも『白鯨との闘い』があったりして、「また海難ものかー」とさほど期待せずに観たんですが、すんごい良かった!遭難側ももちろん大変なんですが、救助側も命懸け、どちらも手探りでサバイバルしなくてはならない、というのがスリリング。嵐の海とそれに翻弄される船のスペクタクルな映像は、実に工夫を凝らしたカメラワークで迫力満点で、緊張感が途切れません。説明台詞を極力廃して語る人物描写や過去の経緯も良いし、50年代の空気感も合ってます。

沿岸警備隊バーニー役がクリス・パイン、遭難船で奮闘するシーバート役がケイシー・アフレックで、どちらも何とか冷静に対処しようと決断を下していきます。一見気弱なバーニーとクールなシーバートですが、二人とも恐怖と戦いながらの行動が続き、決して平静なわけではないんですね。この二人が対となった構造が良いです。ホリデイ・グレインジャーの演じるヒロインのミリアムはバーニーとは逆に超強気、エリック・バナの演じるクラフ司令官はシーバートとは逆に超使えない、というのもあったりします。バーニーと行動を共にするリッチー役に見覚えあると思ったらベン・フォスターでした。

12人乗りの船で32人を救う、というのはこの救助劇のほんの一部。容赦のない自然の猛威、次々襲い来るトラブル、それらを知恵と勇気で乗り越え、さらには過去をも乗り越える様には何度も泣きそうになりました。

↓以下、ネタバレ含む。








実話を元にしていることでフィクションよりは劇的なエピソードは抑えめで、そのため大作のわりには若干のこじんまりさもなくはないです。色々無茶ではあるし、運頼みもかなりあります。事実がそうならそう描くしかないわけですが、ただ「実話がそうだから」で流そうとせず、映像や話の展開、台詞に込めた思いなどで納得できるように作ってあると思うんですね。

バーニーがコンパスをなくしながらも先へ進むのは過去救えなかった事故の記憶を引きずっているからだし、「船へ向かえ」という上司に逆らって陸を目指そうとするのは、コンパスなしで船を見つけろという無茶な指示への怒り、そして船から救った者をまた船に戻すことに対する抵抗感からでしょう。運に頼った局面であったこともバーニーとシーバートが「幸運だった」と言い合うことで自覚していたことが分かります。この台詞には却ってそれまでのギリギリ感が宿ってて良いですよ。定員12名、乗れても22名の小型艇に32人乗れちゃうのは、舳先や縁などもフルに使ってるから。まあノー・コンパスでタンカーに辿り着けるのはさすがに都合のよさを感じなくもないですが「この辺の海はよく知ってる」と言ってたから土地勘が働いたということで。

人物描写も結構丁寧です。バーニーは初めてミンディと会うときのビビりっぷりからちょっと気弱な面があり、ダンスシーンではいざというときは我を通し、プロポーズされた際には慎重で熟考するタイプであるのが分かります。また規則は守らねばと言う真面目な男であることが前半強調され、これが規則を破って船の定員や命令を無視したりする後半とのギャップに繋がって熱くなります。ヒロインのミンディは前半は熊のようなコートに象徴される気の強さで攻めまくりですが、熊コートを忘れてきてからは心細さや不安が増して受け身になっていくのは上手いと思いました。夜の海が恐いとも言ってるので尚更そうなるんでしょう。弱気のバーニーと強気のミンディが逆転するのもバランスとして面白い。

エリック・バナの司令官も現場のベテランに反対されて目が泳いだり、言うことを聞くバーニーを指名したりと実地経験の少ない管理職なんだと分かりますね。惜しむらくはシーバートです。一応周りからちょっと距離を置かれてる感じなのは伝わりますが、もう少し背景を描いてくれても良かったかなという気はします。これはバーニーと共に行くリッチーにも欲しかったところ。ただシーバートに関してはタンカーを沈めないための工夫や活躍が素晴らしいので良し。あれだけ人がいてあんな窮地になったらどうするかで喧々諤々するだろうし(実際しますが)そんな議論を具体的な解決策を示してねじ伏せるのがイカします。海に出ようとする者たちの前で救助挺を切り落とし直後それが大破するシーンにはシビれますね。そんな彼が「独り者なのに」と言われて返す「生きてるから恐い」には唯一の本音が見られます。そりゃ「無駄話してる暇はない」ですよ。ケイシー・アフレックの押さえた演技が非常に良いです。

船や海を自在に貫くカメラワークは実に見応えがあるし、映像は大作らしさがふんだんに盛り込まれています。タンカーの前半分がないと分かるときや、照明を点けたら予想以上に目の前にタンカーがあったとき、警備隊の船が波で跳ねたときにメンバーが垂直にブッ飛んだときなどは声が出そうになりましたよ。波を越えながら歌う警備隊の面々に高揚するし、頑張ってた食堂の親父の末路には悲しみを感じます。ついでに伝言ゲームのような指示伝達シーンでは最後に内容が変わってるんじゃないかとドキドキします(しない?)。ラストにキスシーンというのはベタながら、涙を一筋流しながらというのが美しかった。

原題の『The Finest Hours』=「最上の時間」は「救助に適した数時間」という意味になるでしょうか。陸から照らす車のヘッドライトを見た乗組員たちが、歓声を上げるどころか言葉も出なかったあの瞬間、それまでの数時間は最上の時間へと変わるのです。

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