2016
02.23

耐えがたき抑制と美しき情熱。『キャロル』感想。

carol
Carol / 2015年 アメリカ / 監督:トッド・ヘインズ

あらすじ
変えたのか、変えられたのか。



1952年のクリスマス時期、デパート販売員のテレーズは娘へのプレゼントを探しに来た女性キャロルに心を惹かれる。キャロルの忘れ物を機にほどなく会うようになる二人。やがて離婚訴訟中のキャロルから車での小旅行に誘われたテレーズはともに旅立つことにするが……パトリシア・ハイスミスの小説『ザ・プライス・オブ・ソルト』を映画化した、女性同士の恋愛ドラマ。

まず形容として浮かぶのが「美しい映画だ」ということですね。50年代のマンハッタンという舞台、雨に煙る街中の情景。薄暗い中にふと浮かぶ表情。フロントガラス越しに映る二人の姿。ゴージャスとはちょっと違う控えめでおぼろげな映像的美しさが際立ち、二人の女性を浮き上がらせたり溶け込ませたりします。特に前半は押し殺した背徳感が微かに漂うこともあり、映像美と相まって蠱惑的で惹きつけられます。まだ同性愛に市民権がないという時代性、人目を忍んで会うという秘密性も影響してるでしょう。

しかし何といっても主演の二人の存在感です。キャロル役ケイト・ブランシェットの貴婦人ぶりと、テレーズ役ルーニー・マーラの天使ぶり。本作は二人の精細で情感ある演技を楽しむラブストーリーと言ってしまってもいい。どちらも眼力が凄いので引き込まれてしまうんですよ。ガラスなどの遮蔽物を通した映像と二人に肉薄した映像が入り乱れることもあり、ともすれば境界が曖昧になっていき、そんなたゆたうような関係に現実の壁が立ちはだかっていきます。

最初のデパートでキャロルから視線を外せないテレーズと、テレーズを「天から落ちた人」と呼ぶキャロルに二人がどうなるかの予感を匂わせながら、なかなか踏み出さない関係がもどかしくも見守らせてくれます。新しいのに古典を思わせる貫禄がありますね。『アデル ブルーは熱い色』を思い出しますが、時代性を抜きにしてもちょっと異なります。

↓以下、ネタバレ含む。








妖艶ながら時折感情を爆発させるキャロルと、揺れながらもこうと決めたらまっすぐなテレーズ。そんな二人なので、世間的には許されない行為であっても自分らしい生き方を貫こうとするところが、時代を鑑みても先進的。それに比べると男性陣が悪者か邪魔者に感じるように描かれてる気もしますが、彼らも愛情ゆえの行動なので一方的な悪というわけでもないんですよね。ただ本作はテレーズ、もしくはキャロルの視点が強いので、どうしてもそちらに寄ってしまう。愛情ゆえに一緒にいようとする夫は手段を選ばぬ卑劣感に、愛情ゆえに猛烈プロポーズをしてくる彼氏は鬱陶しい男にと変換されてしまいます。だから結果的にこれは我を通す恋愛物語であり、堪え忍ぶという行為には背を向けて飛び立とうとする話になっています。要するに情熱的なんですね。だからおぼろげではあるけど儚げではない。

そんな情熱を美しい映像で彩るので、同性間の恋愛というのを差し引いても惹かれてしまいます。テレーズがキャロルの車に乗っているとき、周りの音やキャロルの声までが遠のいてぼんやりする、という恋に夢中な描写。キャロルの家から駅へ送ってもらったあと一人電車で泣き出すテレーズの「震える」表情。車の窓ガラスごしにキャロルの姿を見つめるテレーズには、キャロルへの一方的な感情さえ予感させますが、時系列では実はキャロルの方が先に車の窓からテレーズを見つめていたりする。上手いです。タバコの使い方も色々と含んでいるし、ちょっとした会話にも意味を感じさせます。

キャロルもテレーズも現実には問題やわだかまりといった抑制がありますが、そんな現実の積み重ねから最後に抜け出す、というのが意外と言えば意外。キャロルは既に離婚調停中なので倫理的にどうこうというのはあまり感じませんでしたが、弁護士の言う「道徳的条項」に縛られ、娘のためにテレーズと会わなくなります。テレーズは一方的な別れに傷付き、キャロルとの再会にも喜びを見せようとしない。アビーとの会話で「なぜ自分を憎むのか」というようなことを言いますが、逆に自分がキャロルを憎むに至る。でも再会の別れ際、肩に置かれた手で全て氷解するんですね。出会い、昂ぶり、障害、別れ、未練、再会といった、恋愛のあらゆる要素が入っていると言ってよいでしょう。

ただ、テレーズが会いに行ったときのキャロルの最後の表情は、単純な喜びの表情には見えないのでどう取ればいいのか戸惑います。男たちに囲まれているからすましているのか、会いに来てくれたという愉悦が滲んでいるのか、自分の思いが通じたという満足なのか……。テレーズの元カレの弟が映画館で「人物のセリフと本音の違いを見る」みたいなことを言いますが、ひょっとして本作もそういう観かたが必要なのではないか?そう思うと観直したくなってきます。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1033-49062257
トラックバック
back-to-top