2016
02.03

自由であるということ。『ザ・ウォーク』感想。

THE_WALK
The Walk / 2015年 アメリカ / 監督:ロバート・ゼメキス

あらすじ
キューッとします。



綱渡りを得意とするフランス人の大道芸人、フィリップ・プティには夢があった。それは1974年当時世界一の高さを誇ったワールドトレードセンター、そのツインタワーの間をワイヤーロープで繋いで渡ることだった。フィリップは夢を実現するため、仲間たちと共にニューヨークへやって来る。『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリーでも描かれた実話を、ロバート・ゼメキス監督、ジョセフ・ゴードン=レビット主演で映画化。

これはまいりました。超ド級の面白さ。ストーリー自体はほぼあらすじだけで語れる程度の内容で、綱渡りしたい男が仲間と共にビルの間を綱渡りする、というだけ。しかし夢を追うということの真っ直ぐな喜び、仲間たちと準備を進めるケイパーものとしての面白さ、土壇場でのトラブル、そして綱渡りで実現する限りなき自由と、シンプルな物語に比してとんでもない豊かさ。もちろん見所であるクライマックスの綱渡りシーンも凄まじく、手汗が滝状態です。

フィリップを演じるジョセフ・ゴードン=レビットの、ワンパクさとも言うべき行動力と抑えきれない情熱に引き付けられます。真っ直ぐすぎて邪気がないんですよ。JGL本人が実際に綱渡りしてるようで、それもスゴい。フランスなまりの英語も上手い(多分)。ベン・キングズレーのパパ・ルディも偏屈そうで実は……の描き方がとても良いです。ヒロイン始め、高所恐怖症や高度な対人スキル保持者やノリ重視アメリカンなどの「共犯者」たちもキャラが立ってて抜群。フィリップのモノローグは全編で語られるわりには邪魔に感じず、ときに情熱的、ときに詩的でテンポの良さにも繋がっています。またアラン・シルベストリの音楽もジャズだったり伸びやかなストリングスだったりと変幻自在で実に素敵。

文字通り綱渡りな計画。もちろん違法。命綱なしにこだわり、落ちれば当然死ぬ。それでもワイヤーの上を歩くフィリップが得るもの、感じるものは何か。高さが凄まじい3D効果は、高所恐怖症の人を失神させる勢いで過去最上級。終盤は「お……おお……」「え、いやいやいやちょっと、え?」「なんなの?バカなの?バカなの??」「あーーもーーダメだって!ほら!もう!」って感じでした。上映時間の長さを全く感じさせず、最初から最後まで面白い。やったぜゼメキス!これは劇中何度も言われる賛辞の言葉を送りたい。Beautiful!

↓以下、ネタバレ含む。








あんな超高層ビルの上で、風の影響とか大丈夫なの?と冷や汗をかく綱渡りはもちろん、101階で梁の上にフィリップとジェフが二人で隠れるシーンなんかも凄いです。座った状態なので足元が何もないんですよ。さらに靴を脱ぐから足元は果てなき空間です。キューッてきますよ。あとワイヤーがビルのギリギリに引っ掛かってるのを取りに行くシーンなども、うっかりしたら遥か下まで落ちてしまうと思うとキューッてきます。僕も軽く高所恐怖症なので(手すりのない高所は無理)、明確に高所恐怖症と言っているジェフがあんなビルの屋上で作業してるのがまたキューッとさせてくれます。そんななかでビルの合間から向こうに見える海がとても美しかったり、何よりフィリップの歩く姿が美しかったりと、そこには「凄い」という意味だけでなくしっかり「美しい」という意味でのBeautifulもあるのがまた良いです。

フィリップが自由の女神のてっぺんで語る冒頭から引き込まれちゃいます。なぜそこまで綱渡りにこだわるのかは詳しくは語られないんですが、それは他人には理解できないことだとフィリップ自身も分かっているからわざわざ言わないんですね。ワールドトレードセンターの間を渡り歩いたのは後にも先にもフィリップだけだし、彼の綱渡り自体に共感できる人はあまりいないでしょう。ただし本人は至って真面目に取り組んでいるし、別に狂気に駆られているわけではないんですね。ワールドトレードセンターを渡るのは彼の夢であり、一世一代の晴れ舞台。だから実現するために持てる能力も仲間の協力もフル活用する。決行日に決めた8月7日に合わせて全力で突き進む(ちなみに野比のび太の誕生日です)。大事な糸を体で触れて探すため全裸になる。本番直前、下からはそこまで見えないにも関わらず「衣装を落とした!」と騒ぐ。

そこにあるのは「好きなことにかける情熱」ただそれだけです。損得ではなく、栄誉や名声のためでもなく、ただそれだけ。他人の理解を求めることもしない。それこそ「芸術」です。でもここまで我が身を顧みずストイックなまでに情熱を貫き通す人はそうそういないし、やろうとしてもなかなかできるものではありません。だから協力する者も現れるし、観ている我々も惹かれてしまう。言ってみればフィリップが体現するものは、誰もが思い描く「自由」そのものなのです。パパ・ルディが「お前の綱渡りは理解できない。でもきっと意味がある」と言うのはまさにそのことでしょう。ワイヤーの上で周りが霞みフィリップだけになったときの解放感には、「自由」を視覚的にも感じて恍惚とします。フィリップが「自由の女神」の上で語るのも象徴的。さらには計画の実現に邁進する行動力、トラブルにもめげないハートの強さ、最後の3歩で油断することの怖さ、フランス人がアメリカに伝説を作るという国の垣根を超えた情熱と、様々な「意味」までも見せてくれる。シンプルなのに豊かだ、と感じるのはそういうところです。

ラスト、舞台となったワールドトレードセンターが崩落したことについては何も語らず、ただ悠然とそびえるその姿を映して終わります。フィリップの綱渡りもある側面ではテロですが、9・11とは真逆の行為として、失われたビルの思い出と共に語り継がれていくのでしょう。本作によって、フィリップの綱渡りはさらなる「意味」を与えられた、と言えます。

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