2016
01.15

俺たちのあの頃。『ストレイト・アウタ・コンプトン』感想。

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Straight Outta Compton / 2015年 アメリカ / 監督:F・ゲイリー・グレイ

あらすじ
ドープ!



1986年にドクター・ドレー、イージーE、アイス・キューブらを中心にカリフォルニア州コンプトンで結成されたヒップホップグループ「N.W.A.」。理不尽な社会や警察へのメッセージを攻撃的なリリックに込め、FBIからも目を付けられるほどの影響力を持ったN.W.A.の軌跡を描く、実話に基づいたストーリー。

暴力ではなくラップという表現方法で差別的な権力に立ち向かったN.W.A.。「世界で最も危険なグループ」と称された彼らの始まりから終わりまでを描きます。僕はヒップホップは全くの門外漢でN.W.A.の名前も馴染みがないくらい。アイス・キューブも元ラッパーとは知ってたものの役者活動しか見てなかったので、あんなトンがってたというのは知らなかったです。最近では『22ジャンプストリート』のおもしろ上司が浮かびますがあれとはエラい違い。しかし観賞後、帰りの電車に乗りながらN.W.A.のアルバムをノリノリで聴きまくっちゃうほど面白かったんですよ。

ニガーというだけで不当な扱いを受ける黒人青年たちが、己の信じた道を行くため、或いはヤクの売人という底辺生活から抜け出すため、そして社会への不満をぶちまけるためにラップに乗せる「主張」。いわゆるギャングスタ・ラップの歴史を紐解きながら、ときに権力に逆らい、ときにバイオレントな騒動を引き起こし、それでも前だけを見て走る男たち。カッコいいし熱いですが、そこには若さゆえの衝突やすれ違いがあったりもする。そして時が経ってから気付く、失った「あの頃」に泣けます。

アイス・キューブ役のオシェア・ジャクソン・Jr.、そっくりだと思ったら実の息子なんですね。警官隊ガン無視しでの「Fuck the Police」にはカッコよすぎて涙。ヒップホップ全然知らないので音楽的には詳しいことは何も語れませんが、そんな初心者でも問題なく楽しめます。峻烈で過酷で残酷、そんな青春が強烈に迫ります。

↓以下、ネタバレ含む。








実話が元とは言っても多少は脚色されているようで、全てを事実として受け入れるものではないのかもしれません。作りもドキュメンタリー的ではなく、しっかり物語として成り立った伝記ものと言えるでしょう。とは言え僕でさえ名前は知ってる2パックだのスヌープドッグだのも出てくるので、詳しい人ならそれだけで楽しいでしょうね。暴力的な音楽が危険だとして警察だけでなくFBIにまで睨まれたという影響力には驚かされるし、黒で揃えた服装で並んで歩いてくる姿にはシビれるし、生まれた経緯を知った上での「ドレー、俺は言いたいことがある」で始める「Fuck the Police」にはそのあまりのカッコ良さに泣きそうになりました。

逮捕者の近所を通るだけで、或いは集団でビルの外にいるだけで地面に這いつくばることを強要されるという黒人が差別を受ける背景を、強烈なリリックとサウンドとパフォーマンスで世に問う姿が最高なだけに、徐々に軋轢が強まって遂にはキューブ脱退、ドレー離脱とバラバラになっていくのはせつない。イージーEのヌレヌレパーティにも虚しさを感じるし(ぜひ参加してみたいが)、ドレーを守る存在かと思ったシュグはむしろ搾取する方のマジギャングだったり。冒頭でチンピラたちに囲まれていたイージーEが、また同じようにシュグたちに囲まれる姿はあの頃に逆戻りのようでやるせないし、ジュリーを演じるポール・ジアマッティの一癖ありそうなのに信頼してしまいそうな絶妙な演技が効いて、最後の情に訴えてのイージーEへの泣き落としは分かっていても揺らぎそうになります。社会って厳しい。

キューブがいつ元のグループを抜けて正式にN.W.A.に入ったのか、地名は出るもののいつコンプトンを離れたのかなど分かりづらいところはあるものの、変に説明過多にはせずに描く真っ当な友情物語が響きます。振り返れば序盤に皆でスタジオ入ってるときは本当に楽しそうだったし、ドレーの弟が死んだとき「俺たちはブラザーだ」と慰める仲間たちには固い絆があったし、ただダチ同士で「ドープだ」と言い合いながら曲を作っていたあの頃はやはり彼らの青春そのもの。しかしほんの10年ほどで彼らの世界は劇的に変わってしまいます。キューブと再開したイージーEが言いたかったのは「昔の俺たちに戻ろうぜ」という、周囲のしがらみも商売っ気も抜きにした純粋な関係だったのでしょう。それだけにエイズであることを知り嗚咽を漏らすイージーE、昏睡したイージーEの病室前で抱き合うキューブとドレーに涙します。そのキューブとドレー、イージーEの未亡人により映画化された本作は、イージーEへの鎮魂歌でもあるのでしょう。彼らの過ごした密度の濃い時間が、その音楽と共に心に残ります。

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