2016
01.06

したたかさに隠す熱い正義。『ベテラン』感想。

veteran
Veteran / 2015年 韓国 / 監督:リュ・スンワン

あらすじ
クズに持たすな金と権力。



武闘派のベテラン刑事ドチョルは、ある男が図った自殺に疑問を抱き、そこに財閥の御曹司テオが絡んでいる疑いを持つ。しかし捜査を始めたドチョルには次々と圧力がかかる。ドチョルを始めとする特殊強力事件担当・広域捜査隊は財閥の闇に切り込むことができるのか。『ベルリンファイル』で熱いアクションとドラマを見せたリュ・スンワン監督によるアクション・ドラマ。

これは面白いぞ!最初こそとんまな刑事たちが織り成すドタバタコメディかと思ったけどそこはあくまで導入部。やりたい放題の大企業のクズ御曹司を相手に正義を貫く一人の刑事、という王道娯楽作です。ベテラン刑事ソ・ドチョルがベテランならではの世渡りとコネを使いながらも、嗅覚鋭く悪党に迫り弱者を救うため体を張る。見た目は飄々としてるのに男気がカッコよすぎてこれは喝采です。

ソ・ドチョルは型破りで実力行使な捜査、よく喋る人情派の正義漢、ブルゾンにジーンズにスニーカーという服装まで、これはもう韓国版『ビバリーヒルズ・コップ』と言いたいところ。演じるのは『新しき世界』でも存在感を示したファン・ジョンミン。対する御曹司チョ・テオの外道っぷりも凄まじくて、別に極道とかではなくてあくまで企業人のはずなのに、ゲスっぷりを示すエピソードがどれも並外れていてまさに外道。演じるユ・アインの憎々しさは素晴らしいです。金と権力を持ったクズは凄まじい悪役となり、それだけに一刑事であるドチョルとの対決は見もの。

とある事件をきっかけに勃発する争いに、ドチョルだけではなく刑事仲間、そして彼の妻までも巻き込み展開する一大捕物。シンプルな勧善懲悪と見せて、テオの片腕であるチェ常務の愚かさや、相手がクズでもすがるしかない女の悲しさ、地位があるばかりに自由の効かない警察上層部などの細かい演出も冴えたドラマを織り込み、気合いの入った痛そうなアクションや総合格闘技を駆使したバトルまでブチ込んだ痛快作です。

↓以下、ネタバレ含む。








チョ・テオ室長はパーティでの奇行、マッサージされながらのCM会議といった権力を傘にきた行動から、有名女優に手を付け妊娠したら捨てるとか、自分のSPに格闘技訓練付き合わせておきながら負けを認めず足まで折るなどやりたい放題。運送ドライバーのペさんに対する行為も警察が踏み込めない大企業であるのをいいことにマスコミへの圧力、脅迫行為、買収と手段を選ばず隠蔽。僕がさりげなくも端的に最低ぶりを表してると唸ったのは、ペさんの子供に手渡しで菓子を与えておいて、直後同じ菓子を犬にも放り投げるところですね。ちょっとしたシーンでも徹底してゲスさを表しており、同情の余地が欠片もない。親である会長も部下の尻をステッキで殴るとか保身のため身代わりを立てるなどまあ外道なので、この親にしてこの子ありですが。海外の客を相手にビジネスマンとしての振る舞いもできるし、それなりに仕事もできるんでしょうが、芯はドス黒い悪なのがテオ室長です。

じゃあ対するドチョルは絶対的な正義漢というと実はそんなこともないのです。捜査では上のことを聞かず暴走気味だし、捕まえた犯人を屁理屈つけて痛めつけるし、コネを使って入り込んだパーティーで上機嫌だしで、むしろ「こいつ大丈夫?」という感じの方が最初は強いです。金銭感覚も適当だし連行した奴らには実力行使だし(「ミルコとヒョードルか」には笑いますが)、単純にナイスガイというわけでもない。「ベテランである」ということは世間との折り合いを付けるという意味も含むのでしょう。しかしながらペさんの息子に呼ばれて病院へ行ってからは顔つきが変わります。テオに当たりを付ける嗅覚、外堀を埋める技巧、マスコミをも利用しようとする手腕は、これもまた「ベテランである」からこそ。何より「犯罪は許せない」という根っこの部分はパーティーでテオに言う台詞からも伺えるし、警察官であることを誇りに思っているのも所轄刑事への苦言に滲み出ています。この主人公の魅力は、適当そうに見えて芯はしっかりと警官であるところです。

共に根っからの正義と悪である二人の違いは、それを支える周囲の人々の関係性にもあります。ドチョルの属する広域捜査隊チームは一見いがみ合ってそうですが、オ・ダルスの演じるオ・チーム長を始めいざというとき危険を顧みずドチョルの手助けをするという結束の固さを見せます。冒頭で白眼向いて気絶していたミス・ボンが最後にテオに見事な飛び蹴りをかますのも熱い。また彼らの上司である隊長も、権力に流されているのかと思いきや若い刑事が刺されたことで「俺が責任とる」と言うし、婦女窃盗団を捕まえる名目でドチョルたちを送り出します。ドチョルとオと三人で傷の見せ合いをするところで「ああ隊長も仲間なんだ」と思わせるのがいいですね。ドチョルの奥さんが毅然とした態度で賄賂を拒否し、それでも「少し揺らいだ」と正直に言うシーンも良いです。「恥ずかしい」という言葉に、正しさを是としているからこその屈辱が感じられるんですよ。一方のテオに従う者には彼が権力者だからという理由しか見当たりません。特にチェ常務は、一族にがんじ絡めになっている自分の愚かさにも気付いておらず、自分が本家に頼りにされているとさえ思っていそう。そこには信頼などないのにも関わらず。

金と権力のテオ、正義と信頼のドチョルが真っ向からぶつかり合うクライマックスは、そういった積み重ねがキッチリ成されているからこそ、ついに激突!という感じで熱くなります。もちろん派手にブッ飛んだり倒れてぶつかる場所がめっちゃ痛そうだったりと韓国アクションの醍醐味も随所にありますが、ここでスカッと勝つわけではないんですね。ドチョルは監視カメラや周囲の人々のスマホ撮影もちゃんと考慮し、散々自分がいたぶられた後で「正当防衛」として反撃、最後はやられたふりして手錠をかける。このしたたかで、痛い目にも合わせて、それでいて警官として正しい決着の付け方というのがまたベテラン!って感じで良いですよ。ラストはペさんが目を覚まし、さらには子供のメッセージでダメ押し。韓国アクションにしては陽性な終わり方ですが、とても晴れやかな気持ちになれます。

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