2015
12.06

暴走の果ての愛情。『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』感想。

white_god
Feher Isten / 2014年 ハンガリー、ドイツ、スウェーデン / 監督:コーネル・ムンドルッツォ

あらすじ
犬は最強。



雑種犬には税が課される街で、13歳の少女リリは愛犬のハーゲンを父親に捨てられてしまう。ハーゲンは街を彷徨ううちに保護施設に収容されそうになるが、そこで人間たちに反乱を起こす。必死でハーゲンを探すリリはハーゲンに会えるのか。第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ、及び「パルム・ドッグ賞」を受賞した、少女と犬のドラマを描くハンガリー映画。

舞台は犬に対してやたら厳しい街。雑種であるというだけで税金がかかる。アパートの住人は汚いものでも見るような目で犬を見る。迷い込んできた犬を殺そうとする者や、拾った犬を闘犬にして稼ごうとする者もいる。それらから逃れても保護施設に送られ、問題を起こせば処分される。犬に対して優しい心を見せるのは、劇中で主人公の少女リリだけです。そんな社会に一匹放り出されたリリの愛犬ハーゲンは果たして生き残れるのか。これは一匹の犬の熾烈なサバイバルであり、一人の少女の渇望する愛情の物語であり、保護犬という問題を扱う社会派ドラマでもあります。

冒頭シーンはモンスターパニックかゾンビ映画かという迫力で圧巻です。捨てられた犬が敵意に遭遇し、試練に耐えて取り戻す野生の本能。柔和で可愛らしい顔をしたハーゲンが犬軍団を従え人間たちに牙を剥く姿は壮絶です。一方で捨てられた愛犬を必死で探し求める少女リリの、投げやりでやさぐれながらも知る父の思い。リリとハーゲンという二者が見失った愛情と、捨てられ蔑まれる犬たちを、悲しき反乱の物語を通して描きます。

気弱だったペットが虐待した人間に立ち向かう反逆が熱くて、「犬版 猿の惑星」の異名も伊達じゃない。画的に素晴らしいシーンも多く、決してテンポが良いわけではないですが、犬たちの疾走感によって興奮度も高め。何百匹もの犬が見事に演技しており、これでノーCGとは驚愕です。『MASTERキートン』で「訓練された犬は地上最強の生物」と言っていたのを思い出しますよ。獣の野生をナメんな、ってことですね。ラストショットに震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








静寂に包まれた無人の街を自転車で走って行く少女。そこに聞こえてくる吠え声、駆けてくる無数の犬の大群。この抜群のシーンをオープニングに持ってきたことで心掴まれてしまいます。その場面になるまでは正直結構長いですが。リリのオーケストラ部を巡る一連の騒動はちょっとイタい思春期の少女の話としては分かりますが、若干間延びするところもあるかも。ちょうど反抗期でもあるし、離婚したのであろう父親は口うるさいし、あの年頃の娘が父と同じ部屋で寝るというのは嫌でしょうねえ。そもそも3ヶ月も娘放って彼氏と旅行する母親もダメなんですが。愛犬とは別れ、学校でも上手くいかず、家庭環境もよろしくなく、仄かに思いを寄せる男は他の女とイチャつくしで、やさぐれ具合が臨界突破です。しかしクラブで酒飲んでとっ捕まった後での父親の涙に、実はそばにあった愛情に気付くんですね。思えば父親も娘とどう接してよいか分からず、そのイライラがハーゲンに向かったというのはあるのでしょう。

一方のハーゲンは、最初は車や電車の音、船の霧笛にさえビビるような決して強くはない性格であるのが、散々人間に追われ、捕まって売り飛ばされ、鍛えるために痛め付けられ、そうして本能に目覚めます。野生を取り戻したハーゲンの唸るときの顔は、もはや狩る者の表情。でも闘犬で他の犬を殺したときの「何をやってるんだ俺は」という表情で我に返ります。というか我に返ってるかのように見えるのがスゴい。収容所の男を殺ることでリーダーとなったハーゲンが、他の犬たちと共に水の張った入口をおばさん乗り越えて駆けていくのは一気にテンションが上がります。「殺すリスト」に従って、自分を売った男、鬼トレーナー、肉屋の男にチクったアパートの女まで抹殺していくのは、痛快さを越えて空恐ろしさまで感じます。特にトレーナーの部屋で暗闇からゆっくりと姿を表すハーゲンのボスっぷりが最高。もはやレジスタンスと言うよりマフィアです。

リリは家族に愛されない(と思っていた)ぶんの愛情を代わりにハーゲンにかけていたのでしょう。父親と分かり合ったことでそれは解消されたものの、愛情をかけられていたハーゲンの方は失ったまま。最後についに再開しながら一触即発の両者。そのときハーゲンがリリの愛情を思い出してしまったのが良かったのか悪かったのかは難しいところだし、この後のことを考えると重苦しいものもありますが、ハーゲンに従うように伏せた犬たち、同じように寝転んでハーゲンと無言で語り合うリリ、そんな娘の横に同じく伏せる父という、傷付け合った三者が目線を合わせて分かり合おうとする姿を描いたことが素晴らしい。荘厳なショットを最後に、人にとっても犬にとっても悲しい反乱に静かに幕を引く終わり方に、深い余韻が残ります。

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