2015
11.28

月に行くのはウソでも大変。『ムーン・ウォーカーズ』感想。

moonwalkers
Moonwalkers / 2015年 フランス・ベルギー / 監督:アントワーヌ・バルドー=ジャケ

あらすじ
マイケル・ジャクソンは関係ないです。



1969年、月面着陸成功に焦るアメリカ政府は保険として月面に降り立つ映像の捏造をキューブリック監督に依頼することに。監督に会うため送り込まれたCIA諜報員キッドマンはたまたまオフィスにいたダメ男ジョニーをキューブリックのエージェントと勘違いし、大金を騙し取られるが……。アポロ11号の月面着陸を巡るブラック・コメディ。

月面着陸の捏造映像をキューブリックに撮らせようという発想からしてアホのように思えますが、これは都市伝説としてはよく聞く話であり、過去にも『カプリコン・1』という、こちらは月ではなく火星着陸の捏造ですが、見事なサスペンス映画があったりします。対して本作はヒッピーとドラッグと訳のわからんアートに満ちたブラックなコメディ。オープニングのサイケ映像からして60年代という時代性がよく表れていて思わずニヤリとしてしまいます。清々しいほどのグロ描写もむしろ笑えるし、ドラッグによるトリップ映像も念入りにやっていて可笑しいし、バカすぎる登場人物たちには苦笑いが込み上げます。

PTSDに悩むベトナム帰還兵のCIA諜報員キッドマンと、借金で首が回らない売れないバンドのマネージャーであるジョニー。国家的陰謀のはずなのに、この二人を中心とするこじんまりとしたドタバタ劇に収斂されていくのが愉快。キッドマン役は『ヘル・ボーイ』や『パシフィック・リム』チャウ役のロン・パールマンで、これが激強い無双親父でありながら、美女に「天使ちゃん」と呼ばれるのも納得の可愛さです。ジョニー役は『ハリー・ポッター』ロン役でおなじみルパート・グリントで、彼の軽率すぎる口だけ野郎の焦りっぷりも実にイイ。

怪しい芸術家やマフィア組織なども巻き込みつつ、騙し騙され争い手を組み、そうして二人が得るものは何なのか。二人の過去の乗り越え方が弱いし、何よりバディ感が薄いので物語としては浅いですが、世界が見守る華やかな月面着陸の裏で、地べたを這いずる者たちの投げやり感が面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








ベトナム戦争から始まるアバンタイトルにはちょっと意表を突かれますが、その戦争で心に傷を負い、それでも任務を遂行せざるを得ないキッドマンが意外と雑なのが面白くてですね。行きの飛行機で隣のウザい客を強制睡眠させたりトイレで邪魔をするジャンキーたちをブチのめすのはまだマシな方で、ヒッピーの服を着てからはスコップでマフィアの顔面は叩き潰すわ、邪魔する奴は容赦なく撃ち殺すわ、かと思うと自分をみつめる女性をむっちゃ意識したり、アヘンとLSDでハイになりすぎて結果アリを眺めることに夢中になるという『アントマン』も驚きの展開に笑います。一方のジョニーは、ジミヘンのレコードにシットなことをされるのはさすがに気の毒でしたが、相手の素性も確かめず金を騙し取ろうとするし、大金が手に入った途端豪遊して借金取りにバレるし、やること成すことその場しのぎの詰めの甘さでバカすぎます。

他の登場人物もことごとくマヌケで、ジョニーの相棒のレオンが呑気こいたバカっぷりで面白いし(ジョニーとはどういう関係なのかは気になるところですが)、バンドのバカボーカルは本当にバカだし、ジョニーのいとこであるプロモーターはクソ野郎だし、芸術家気取りのブリーフデブ監督はなぜか人脈と映画の撮り方は分かっているから厄介だし、さらにはマッチ棒で建物の模型作ってるマフィアボスとか、今まで何してたんだという役立たずのCIAと、ろくな奴が出てこなくて笑えます。いとこのオフィスにある女性型のテーブルとか、ロックオペラと信じきったバンドがクラゲの格好してるとか、アポロの成功を信じてない上層部がバカな捏造映像をアホみたいに眺めてたりとか、顔が景気よく上半分吹っ飛ぶ様子に逆に笑っちゃうグロ描写など、緩くてふざけてますね(ホメてる)。最後の撃ち合って全滅パターンもここまでの展開に合った潔さだし、ボスのナイフにオノで一騎討ちを挑むキッドマンとか最高です。極めつけはあれですよ、ブリーフ監督(そんな名前ではなかった気がするが)の3年かけて作った傑作『跳ねる』ですよ。バカすぎます。でも月面着陸のセットは思いのほか立派なので、実は凄い奴なのかもしれません。あのセットのおかげで、途中からすっかり忘れてたキューブリックのことを思い出しましたよ。

ただ、キッドマンの手が震えるほどだったPTSDが、アヘンにLSDとヤクをキメまくったら治っちゃった、というのはさすがにアッサリすぎます。ジョニーが自らを「運がない人生だった」と言うのも、クライマックスでたまたまキッドマンを救おうとして撃たれたけど生きてた、ということで何となく帳消しになっちゃってるのも拍子抜け。二人の抱える闇がどう解消されるかは肝になる部分だと思うんですが、そこがかなり適当に終わってしまうのは残念です。この二人が主役だ、と言えるほどのバディ感が決定的に足りないのもイタい。しかしながら、全てのしがらみを断ち切って親しい者だけを連れて街を出た彼らは、月面着陸を成功させたアポロ11号の映像を見て、自分らの騒動など本物の偉業の前では誰も気にしないし、どうでもいいことだと悟ります。そこで彼らはようやく本当の自由を得たと言えるでしょう。そりゃ敵いませんよ、宇宙には。アポロ11号は偉大だった、ということですね。

しかしあのエンドロールにはやられました。まさかまた『跳ねる』が出てくるとは……ひょっとしてあれは本当に傑作なのでは……?(夢に出てうなされそうですが)

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